研修講師として独立開業・年収アップ

研修講師の独立開業ビジネス戦略を考える

研修業界にも流行の研修テーマというものがあります。

私がまだ会社員だった20世紀末の1990年代に流行していたのは「接遇」と「ファイリング」。

接遇研修はビジネスマナーとして今も新入社員研修に一部取り入れられていますが、あの当時は女性社員だけを集めて接遇研修をするなんてこともありました。今では考えられないですよね。ファイリング研修は紙の書類の整理と保管を学ぶ研修でした。デジタルという言葉が一般化していなかった頃の話です。

21世紀になって大流行したのが、「コーチング」と「ロジカルシンキング」です。それまでの企業研修にはなかったテーマで、20世紀に会社員だった私はこの2つを企業研修で教えてもらったことはありません。最近は、「1on1」や「心理的安全性」というテーマが流行っているようですね。

企業研修は組織や人材に関する問題の解決策なので、経営環境の変化に伴ってその時々に多くの組織で問題となるテーマが取り入れられるのは当然のことだといえるでしょう。

流行のテーマで新規参入する戦略は是か非か?

先日、古くからの知り合いの方が会社を辞めて研修講師になるというのでお会いする機会がありました。その方は心理的安全性をテーマにした研修を提供するとおしゃっていました。

「ずっと研修講師で独立したいと考えていて、いろいろな勉強をしてきたが、やっとこれが私がしたかったことだというテーマに出会えました」と言われました。自分がこれをやりたいというテーマに出会えることは幸せなことだと思います。そういう出会いをした方は深い興味をもって仕事も学習もやり続けることができるでしょう。

研修講師として新規参入する際に流行のテーマの研修講師から始めることは、私は悪くない戦略だと思います。フレッシュな講師の方がフレッシュなテーマの研修をすることで、キャリアの長い講師との差別化ができますし、実績がなくても採用されやすいからです。

研修はカタチのないサービス商品なので事前に品質がわかりません。そのため企業が研修の採用を検討する際に、担当講師の実績が検討材料になることもあります。そのような背景があるので、実績が問題になりにくい流行のテーマで新規参入するのは戦略としてはアリなのです。

問題はそのあとです。

流行はかならず過ぎ去っていきます。90年代に接遇研修講師をしていた方で、今も当時のままの研修プログラムと教材で接遇研修をしつづけている方はもうほとんどいないと思います。その研修がどんなに素晴らしくても市場の変化には勝てない、それはどんなビジネスでも同じです。

流行が過ぎ去ったあとの戦略は?

流行の研修テーマは数年間は採用する企業が多くあり、その研修ができる講師の方が一時期ひっぱりだこになります。2000年代はコーチング研修をできる先生はひっぱりだこでした。

今もコーチングは企業研修で教えられています。しかし、あの当時と同じ研修プログラムや教材で教えられることはありません。接遇研修が新入社員研修の一部分となったように、コーチングも管理職研修など他の研修の一部分となっています。

また当時に比べると、コーチングを教える講師の方も爆発的に増えました。流行のテーマはその流行の度合いが大きければ大きいほど必ず後発者、ライバルを増やします。ライバルが増えて市場ニーズへの供給が一段落すると次の流行へと移り変わっていくのは、人の世の常です。

このように流行は必ず過ぎ去っていきますので、流行のテーマで新規参入したあとは実績を積みながら、スタンダードな研修をできるように淡々と準備しておくことがビジネス戦略としては重要です。

スタンダードな研修とは何か?

この図は研修体系と呼ばれるものです。左から階層別研修、課題別研修、テーマ別研修、全社研修、そして部署別または職能別研修というカテゴリーに分けられるのが一般的です。階層別研修から全社研修までを人事部門が管轄し、部署別研修や職能別研修は部門長が管轄して予算をもっています。

この研修体系は、インターネットで検索していいただくとわかると思いますが、どの会社も大変似たカタチをしています。そして、このなかで中核となるのは階層別研修です。研修の内容は時代とともに変化していますが、階層別研修という形態が今後もなくなることはありません。

なぜ研修体系がどこの会社も同じカタチをしているのか、なぜ階層別研修がなくならないのかについては、話が長くなるので別のコラムでご説明しますが、人事が研修の年間予算を最も多く配分するのが階層別研修であり、毎年、地味に繰り返し行われ続けるのが階層別研修です。

つまり、スタンダードな研修とは階層別研修です。安定的に長期的にコンスタントに稼いでいる講師の皆さんは階層別研修にしっかり取り組んでいます。

独立開業した当時の私の体験

私は40歳の時にマーケティングコンサルタントとして独立開業しました。会社員時代に広告・広報・販促業務を担当していた期間が長く、日本マーケティング協会の会員としての学習歴も長かったからです。

当時はアメリカのビジネススクールへ留学してMBA(経営学修士)を取得している方が増え始めている時代で、ストラテジー(事業戦略)やマーケティングなどビジネススクールで教えられている知識が普及し始めていました。つまり、「マーケティング」は当時の流行テーマの1つで、私も独立開業後4年間は仕事に困ることはありませんでした。新規戦略として当たっていたわけです。

しかし、ある時パタッと新規の仕事がこなくなったのです。それから1年半くらい右往左往しました。マーケティングコンサルタントが新規客を獲得できないというのは笑えない話ですが、本を読み漁りセミナーを受けまくり、いろんな手を打って少しは受注が回復してもコレといった決め手がわからない日々でした。

その後ご縁があり個人対象スクールの副社長になったので、この悩みからは解放されました。そして、この経営者になった経験が「企業研修とは何か」を考え直す、よい機会にもなりました。企業研修の中で階層別研修がどうして重要なのかを身をもって知ることができたのです。

まとめ|新規参入戦略と事業安定戦略は違う

マーケティングコンサルタントだった頃、同じ業界でも新規参入者の方と長くビジネスをしている方には違う戦略をアドバイスしていました。それが自分のこととなると見えなくなる。今となってはその体験も含めてよい経験だったと思っていますが、当時は新規参入戦略と事業安定化戦略を変えなければいけないことを思いつきもしませんでした。

企業の研修ニーズには、一時的なニーズもあればスタンダードなニーズもあります。一時的なニーズは流行の研修テーマとして世の中に現れます。流行の研修テーマは、マスコミやSNS、書店の平積みやアマゾンのベストセラー表示などで目につきやすい。一方で、スタンダードなニーズは地味なので見落とされがちです。しかし、スタンダードはビジネス的には強力です。

「顧客の現実を知る」ことでしかビジネスは成功しない、ドラッガーが言うことはやはり正しいのだと思います。

あなたの研修講師としてのご活躍を心から応援しています。

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