研修講師なら知っておきたい教育の話

Book Review|企業内人材育成入門

「もはや、人材育成は『理論的な裏付けなしに誰もが語れるもの』ではない」。この本の、この一文に啓発(挑発?)されて、私は大学院で教育学を学び直すことにしました。47歳のことでした。

本書の初版は2006年。些末な情報は多少古くなっていますが、根本的な考え方は今でも全く古びていません。この本の出版以降、教育工学やインストラクショナルデザインの類書が次々と出版されましたが、企業内研修について考えるためにそれらの概要をまず知りたいと思うのなら、本書はうってつけの一冊です。

教育工学とその基礎学問である教育学、学習理論、心理学などは日本国内においては「学校教育」や「生涯学習」という枠組みで語られることはあっても、「企業内人材育成」という枠組みで語られることはこの本が出るまではありませんでした。そういう意味で、企業内人材育成と教育学を結びつけた、はじめての本だといえるでしょう。

そのうえ、本書は類書にありがちな理論を並べて紹介する形式ではなく、仮想の人事担当者を主人公にしてストーリー仕立てで、理論の実務への活かし方を学べるように書かれています。本の編集そのものが教育工学的なのです。

ただし、著名な理論とその活用方法が分かりやすく書いてあるので、一度読むと自分が魔法の杖を持ったような錯覚に陥りやすいのが欠点かもしれません。

教育も学習も人材育成も複雑な営みです。当たり前ですが、すべての状況、すべての課題、すべての対象者に通用する、「これだけ知っていれば大丈夫」的な理論もノウハウもありません。読み返すたびに、そのことを再認識させてくれる本でもあります。

企業内人材育成入門 -人を育てる心理・教育学の基本理論を学ぶ-
中原淳(編著)荒木順子,北村史朗,長岡健,橋本諭(著)ダイヤモンド社

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