Book Review|学びとは何か
研修講師の仕事を長くしていると、教えることの難しさに悩んでしまうことを度々経験します。そういう時は、私自身に新しい学びが必要な時なのだと思います。
教える仕事とは切っても切り離せない「学び」。学びとか学習という言葉を私たちは日常的に使いますが、そもそも学びって何なのでしょうか?
本書は、認知科学者であり言語心理学者である著者が、科学のエビデンスに基づいた新しい知識観の視点から「学びとは何か」をわかりやすく解き明かした好著です。
覚えても使えない「死んだ知識」と、新しいことを生み出す「生きた知識」とは何が違うのか。生きた知識はどのような性質を持ち、脳にどのようなカタチで存在しているのか、どうしたら生きた知識を身につけることができるのか。
本書を通じて論じられる、人間の「生きた知識」と「死んだ知識」の違い。機械学習やディープラーニングをするAIが登場した今の時代に、教える仕事をする研修講師は一度は考えておくべきテーマだと思います。
結論的な一節を引用します。
-「生きた知識とは何か」という問いについて、学習・熟達に伴う脳の変化が教えてくれること。それは、使うことができる知識は、事実の断片的な記憶の集積ではなく、知識をいかに使うかという手続きそのものの記憶と切り離せない形で脳内に存在するということだ。-
この本は、世の中の多くの人が共有している学校のテストで試される知識観を科学的に修正してくれます。この「観の修正」こそが学びだと著者はいいます。
近年、認知フレームのリフレーミングやメタ認知など、観の修正と同義的な心理学用語を多く見聞するようになりました。観の修正が学びに深く関係することは間違いなさそうです。
では、観の修正を他人が教えることはできるのか? 単なる思い込みの修正と観の修正はどう違うのか? 観の修正というけれど、例えば「知識観を修正をした先にある知識観」というものを私たちはどうやって獲得しているのか?
読後にやっかいな問題意識が生じてしまいました。そして学びは続く…
学びとは何か-〈探究人〉になるために 今井むつみ(著)岩波新書1596
目次
第1章 記憶と知識
- 「記憶力がよい」とはどういうこと?
- 知識とは何だろうか?
第2章 知識のシステムを創る-子どもの言語の学習から学ぶ
- できることから始める
- ことばの意味の学び方を学ぶ
- 知識のシステムを構築する
- 概念の創出
第3章 乗り越えなければならない壁-誤ったスキーマの克服
- 赤ちゃんでもわかる物理法則
- 誤ったスキーマ
- 思い込みの落とし穴
- 母語のスキーマと外国語学習
- 誤ったスキーマの克服
第4章 学びを極める-熟達するとはどういうことか
- 熟達とは
- スキルの自動化と作動記憶
- 直観力はどこから生まれるのか
第5章 熟達による脳の変化
- 脳のしくみと熟達
- 脳はどのように変化する?
- 人から学ぶときの脳の変化
- 「直観」はどこにある?
第6章 「生きた知識」を生む知識観
- 知識観が学びを決める
- 「生きた知識」を獲得するためには
- 暗記はほんとうにダメなのか
- 「生きた知識」とエピステモロジー
第7章 超一流の達人になる
- いかに練習するか
- 努力か、才能か
- 熟達と創造性
- 「天才」とはどんな人か?
第8章 探究人を育てる
- 探究人を育てるためのシンプルな鉄則
- 遊びの中から探究心を育む
- 学び力は自分で身につける