研修講師として独立開業・年収アップ

研修講師として年収1000万円を稼ぐには?

先日、ある研修会社の経営者からこんな相談を受けました。

「ベテラン講師の方からこれだけ実績があるんだから講師単価を上げてほしいと言われているのですが、どうしたらいいと思いますか?」

企業を対象とした研修講師の講師料は、一般的には「一日の集合研修」に対しての講師料を「講師単価」として設定されて支払われます。この料金設定の考え方は、クライアント企業と直接契約する場合も研修会社のパートナー講師として契約する場合も同じです。

研修講師業は基本的には労働集約型サービスなので「講師単価×年間の稼働日数」で年収が決まります。もし講師単価が3万円なら年収1000万円を稼ぐためには、年間333日稼働しなければなりませんが、そんなことは無理な話です。つまり、年収1000万円を稼ぐには、必然的に講師単価を上げる必要があるわけです。

講師単価の設定には3ランクある

結論をいえば、講師単価は3ランクで設定されています。

それが、①デリバリー講師、②パッケージ講師、③カスタマイズ講師で、この順番に講師単価は高くなります。

この3ランクは、研修テーマの需給バランス、専門分野の難易度、研修講師のキャリアや実績、地域差にも多少は影響されますが、根本的には研修講師が受け持つ「仕事の範囲」によって決まっています。

研修講師の仕事の範囲とADDIEモデル

ADDIEモデルとは、教育活動の流れをモデル化したものです。

教育に関する様々な理論や知見を活用して、効果的・効率的・魅力的な教育活動を創りあげることをインストラクショナルデザインといいますが、ADDIEモデルはその中の最も基本的な知識です。企業研修も教育活動である以上、ADDIEモデルに沿って行うのが原則です。

ADDIEモデルは大きく5つのプロセスで構成されています。

1つめのプロセスはAnalyze(分析)、教育ニーズを分析して教育目標を設定します。

2つめはDesign(設計)、教育目標を達成するための教育プログラムを設計します。

3つめはDevelopment(開発)、プログラムに必要な教材を開発します。

そして、4つめがImplement(実施)。

最後のプロセスで、その教育の効果をEvaluate(評価)します。

これらの頭文字をとって、ADDIEモデルと呼ばれています。このADDIEモデルの5つのプロセスのうち、どこを仕事の範囲として担当しているかで、講師単価は3ランクに分かれます。

Implementだけを受け持つデリバリー講師

デリバリー講師とは、研修会社が開発した研修プログラムに沿って、研修会社が開発した教材を使い、研修を提供(デリバリー)する講師のことをいいます。

例えば、大手企業の新入社員研修や多店舗展開をしている企業の店舗スタッフに接遇研修をする仕事などがあります。このような場合は同じ研修を一度にたくさん実施するので複数の研修講師が必要となりますが、講師ごとに違った内容を教えてはいけないので、講師マニュアルや台本が準備されて、それに従って研修を提供します。

デリバリー講師の講師単価の相場は、1日当たり平均3万円から5万円くらいです。地域や研修の難易度によって多少の差はありますが、おおよそこれくらいです。講師が実績を積んでも講師単価はほとんど上がりません。もし上がることがあっても3万円から5万円の幅のなかです。

デリバリー講師単価が低いのは、研修当日のデリバリーに関する技能が簡単だからというわけではありません。デリバリーにはデリバリーの難しさがあります。しかし、デリバリー講師はADDIEモデルの中の担当範囲が狭いのです。これがどうしても講師単価が低くなってしまう理由です。

冒頭でご紹介した「講師単価を上げてほしい」と交渉していた講師の方はこのデリバリー講師でした。「研修をご自分でつくってくれればねぇ…」と研修会社の社長はため息をついていました。

プレゼンテーションが得意な方や人前でわかりやすく話すことに自信がある場合は、手っ取り早く研修講師になる道としてデリバリー講師は向いていると思います。

ただし、デリバリー講師は実績を積んでも講師料がそれほど高くならないだけではなく、実績を積んでどんなに担当した研修が上手になっても、著作権が研修会社にあるので、それを他の会社で実施することはできません。

そのうえ、デリバリー講師は研修会社の受注状況に自分の売上が依存せざるを得ないという弱点もあります。

最近、大手企業を中心に研修の内製化(社員が社内講師として研修を実施すること)が進み始めています。特に、これまでデリバリー講師が担当していた、新入社員研修や店舗スタッフの接遇研修などは内製化されがちです。内製化されると研修会社に発注はなくなり、デリバリー講師も仕事を失います。デリバリー講師だけをしていくのはリスクが高いと言えます。

DesignとDevelopmentを行うパッケージ講師

パッケージ講師は、研修講師が自ら研修プログラムを設計して教材開発を行ったうえで、研修当日に登壇する講師のことをいいます。その点は、次にご紹介するマスタマイズ講師も同じです。

両者の違いは、カスタマイズ講師が発注元であるクライアント企業の個別な教育ニーズに最適化したプログラムや教材をその都度、考案・設計・開発しているのに対して、パッケージ講師はどの会社にも通用する標準型の研修を提供している点です。洋服に例えるのなら、既製服と注文服の違いのような感じです。

パッケージ研修の一例をあげるのなら、ロジカルシンキング研修、コーチング研修などが代表的なものになります。ビジネススクールで学んだ方やコーチングなどの資格を取得した方が、スクールで学んだ知識をもとに標準型のパッケージ研修を提供していることが多いです。

パッケージ研修を自分で開発すると、研修会社に売り込むことが可能になります。

研修会社は常に新しい研修講師を探しているので、講師の方からアプローチすればほとんどの場合会ってもらえますし、定期的に講師募集をしている会社もあります。その時に、自分が作ったパッケージ研修の教材を持参するのは必須です。手ぶらで研修講師になりたいと言っても仕事はまわってきません。

また、パッケージ研修を独自開発していれば、研修会社や銀行、商工会議所などが主催する公開講座(企業が社員を派遣して、いろんな会社から受講者が集まって開催される研修)の講師ができる可能性があります。ただし、公開講座は企業内研修に比べて数が圧倒的に少ないし、実績の多い講師が優先的に採用されることが多いという点は注意が必要です。

パッケージ講師の講師単価は1日当たり平均5万円~10万円くらいですが、最近はパッケージ講師の講師単価は下がる傾向にあります。その理由は、カスタマイズ研修が一般的になってきたことが影響しています。

カスタマイズ講師の講師単価が高い理由

研修業界では、クライアント企業の個別具体的な教育ニーズに最適化した研修を開発することを「カスタマイズ」といっています。

インターネットで研修会社のホームページを検索していただくとわかりますが、研修会社で「御社の課題に応じたカスタマイズ研修を提供します」と表記していない研修会社はまずありません。つまり、企業研修はカスタマイズすることが一般的になっています。しかし、カスタマイズがちゃんとできる研修講師の方は今はまだそれほど多くありません。だから、講師単価が高いのです。

カスタマイズ講師の講師単価は1日平均15万円~30万円が相場です。デリバリー講師と比較すると最低でも3倍、高ければ10倍に跳ね上がります。安定的に年収1000万円以上を稼いでいるのはカスタマイズ講師として活動している人たちです。

カスタマイズというと難しそうだし手間や時間がものすごくかかるのではないかと思われるかもしれません。場合によってはゼロから設計・開発するプログラムもありますが、私の経験では5割から7割くらいは標準プログラムが通用します。

クライアント企業の教育ニーズに応えるために、どこをどの程度カスタマイズすればよいかをAnalyze(分析)して見極めるのが重要なポイントですが、これもある程度パターンがあります。職人技でその人にしかできないというような世界ではありません。

補足になりますが、カスタマイズ講師になると研修会社のパートナー講師として仕事をすることもできますが、クライアント企業から直接受注することもしやすくなります。カスタマイズするためには、クライアント企業の個別具体的な教育ニーズをヒアリングする必要がありますが、仲介者を挟まず直接にヒアリングしたほうがやりやすいことも多く、クライアント企業も直接コミュニケーションすることを望む場合があるからです。

どちらを選ぶかはそれぞれの講師の選択です。営業が苦手とか苦手じゃなくても講師業に専念したい人は、研修会社のパートナー講師専業で仕事をしている人もいます。研修会社とはつきあわず、絞り込んだ数社の企業から直接受注して年間を通じて深いおつきあいをしている講師もいます。研修会社のパートナー講師と直接受注をミックスしている講師もいます。

また、カスタマイズ講師の方は公開講座のパッケージ講師もできるし、ほとんどの方はデリバリー講師に対応することもできます。デリバリー講師が研修会社に100%依存しているのとは異なり、事業の選択の幅・ビジネスチャンスの量が違ってきます。

まとめ|年収1000万円を目指すならカスタマイズ講師になろう

講師単価が違う3つの講師-デリバリー講師、パッケージ講師、カスタマイズ講師の違いはご理解いただけましたか。

この業界での経験が浅い方は講師単価の違いを、知名度や実績数、資格などの有無だと勘違いしがちです。そういうことが多少影響する場合もありますが、根本は担当する仕事の範囲の違いだということを理解しておきましょう。仕事の範囲の違いなら、その仕事をこなすための知識とスキルを身につければいいのです。

あなたの研修講師としてのご活躍を心から応援しています。

ページトップへ