研修講師の仕事・研修の作り方とコツ

セミナー講師と研修講師の仕事内容の決定的な違いとは?

講師と呼ばれる職業には代表的に2つのビジネス形態があります。

1つは、個人を対象にしたセミナーやスクール、講演会など。もう1つが、法人を対象にした企業研修です。

1つめの個人対象セミナーは、主催者が参加者を集客して、会場へ参加者が集まり、そこで講師が教えます。それに対して、企業研修は、企業内研修とも呼ばれることがあるように、企業の研修室や会議室に社員を集め、そこへ講師が出向いて教えるというのが典型的です。

どちらも会場で講師が参加者に何かを教えている姿だけを見ると、この2つはあまり変わらないようにも見えますが、実際には仕事内容に決定的な違いがあります。

セミナー講師と企業研修講師との利害関係者の違い

上図左側にある2つの丸は、セミナー講師ビジネスの利害関係者を表しています。個人を対象としたセミナーの場合は講師とセミナーの参加者、この二者だけでビジネスが成立します。

それに対して、企業研修ビジネスには四者の利害関係者が登場します(上図右側)。

まず、下部の2つの丸は研修講師と研修の参加者です。ここまでは個人対象セミナーと同じです。しかし、企業研修の場合には、社員に研修に参加するように業務指示をし、その費用負担をする企業(具体的には経営者や人事担当者)が登場します(右上の丸)。

研修講師が企業に直接営業をして直接契約をする場合はこの三者でビジネスが成立しますが、この業界ではほとんどの場合、企業へ営業をして企業から受注しているのは研修会社です(左上の丸)。研修会社は企業からの受注を受けて、パートナーの研修講師へ仕事を発注します。

このように、企業研修ビジネスは個人対象セミナービジネスと比べると、利害関係者が多いというのが大きな特徴です。この特徴から、セミナー講師と企業研修講師の仕事内容に違いが生まれます。

以下、セミナー講師には求められないけれど、企業研修講師に求められる仕事-特に決定的に違いのある2つの仕事を説明します。

研修講師は参加者以外とのコミュニケーションが重要

個人対象セミナーの場合、そのセミナーに参加するかどうかの意思決定をするのは参加者本人であり、費用負担をするのも参加者本人です。

しかし、企業研修はこの点が全く違います。研修の発注権限を持ち、費用負担をするのは企業です。そのため、企業(多くの場合は窓口となる人事担当者)とコミュニケーションをする必要が生じます。

直接営業をせずに研修会社のパートナー講師として活動する場合は営業活動そのものは研修会社がしてくれるから、研修講師は企業とのコミュニケーションはまったく必要ないかというと、そういうわけでもありません。

研修当日は当然、人事担当者とお会いします。昼食などをご一緒することも多く、その際に「うちの社員はどう感じられましたか?」という質問をよく受けます(ほんとによく受けます)。企業研修や人材育成策に関する情報交換をしているうちに悩みを相談されることもあり、それが次の提案に繋がることがあります。

また、ファイスtoフェイスのコミュニケーションだけでなく、ツールによるコミュニケーションも重要です。

個人を対象としたセミナー講師には求められないけれど、企業研修講師には求められるコミュニケーションツールがあります。代表的なものが「研修報告書」です。経営者や参加者の上司は通常は研修に参加していませんから、研修業務完了の報告書の提出を求められるわけです。研修報告書に人事担当者や経営者が知りたいだろうことを数値化して記述するなどの工夫をすると、次の受注に繋がることがあります。私自身、何年間も直接契約でお仕事をいただいている企業は、そのような報告書の提出がきっかけになっていることが多いです。

受注するためのコミュニケーションツールである「提案書」も重要です。個人対象セミナーの場合は参加者に向けて提案書(チラシやホームページ、WEB広告など)をつくると思いますが、企業研修の場合には発注権限者である企業(経営者や人事担当者)に向けて提案書をつくる必要があります。研修会社が提案書をつくる場合には、あなたの研修の内容や長所をきちんと理解して的確に表現してもらう必要があります。そのためには、研修会社の担当者との事前のコミュニケーションが欠かせません。

このように、企業へ直接営業して受注する場合はもちろん、研修会社のパートナー講師として活動にするにしても、企業研修講師という仕事をする以上は、参加者以外の利害関係者とのコミュニケーションが欠かせません。

研修講師はパッケージプログラムをゴールにしてはいけない

企業研修の講師単価には、①デリバリー講師、②パッケージ講師、③カスタマイズ講師の3ランクがあることは別のコラムでご説明しました。

その記事の中でもご説明しましたが、現在、企業研修はカスタマイズすることが一般的になっています。カスタマイズとは、クライアント企業の個別具体的な教育ニーズに最適化した研修を開発することを意味します。

個人対象セミナーの場合は、セミナーの教育プログラムを参加者の個別具体的なニーズに合わせてカスタマイズすることはありません。講師がつくったパッケージプログラムをどの方にも提供します。もちろん、セミナー当日の参加者の質問には個別具体的に回答すると思いますが、企業研修のように先に要望を聞いて毎回それに対応するプログラムや教材をつくることはありません。

そういう意味で個人対象セミナーの場合は、ご自分のパッケージプログラムをつくることがゴールですが、企業研修の場合はパッケージプログラムをつくることをゴールにしてはいけません。

パッケージをゴールとしていると、ビジネスが行き詰ってしまいます。なぜなら、企業や研修会社からのカスタマイズのリクエストに対応してもらえないとわかると、リピートされずに先細りになってしまうからです。

例えば、あなたが問題解決研修の講師だとして、A社とB社の2社から「うちの会社で問題解決研修をしてほしい」というオファーがあったとします。

A社は創造性や新規性を重視しているアプリ開発の会社で、中堅社員を対象にした「社会の問題をアプリで解決するコンテスト」制度があり、その前提として問題解決研修をしたい。研修日数は数日間かかってもよい。また「社会の問題をアプリで解決するコンテスト」の審査員として講師の先生にも参加してもらいたい。

B社は多店舗展開型の飲食店運営会社で、店舗スタッフはパートアルバイトで運営されている。店舗の現場マネージメントを行う社員(係長クラス)を対象に、店長(課長クラス)を頼らずに主体的に職場の問題解決を行えるように育てたい。みんな現場があるので、一堂に集まれるのは月に1度の本社会議のあと半日だけ。

この2社にまったく同じ教材を使った、まったく同じ研修プログラムをすることはできません。問題解決に関する抽象的な知識や一般化された手順に違いはなくても、それぞれの企業が持つ研修の目的や背景、社員に期待されているアウトプットや行動変容、会社のビジネススタイルや企業風土、参加者のキャリアや志向性など様々な違いに対応しなければ研修の効果が上がらないからです。ちなみに例に挙げた2社は過去に私が受けたオファーです。業種等は脚色していますがほぼ実話です。

このように、企業研修はパッケージプログラムが商品開発のゴールではありません。その先のカスタマイズをゴールに見据えて商品開発することが必要になります。

まとめ|クライアントである企業ニーズから生まれる仕事内容の違い

個人対象のセミナー講師と企業研修講師の仕事内容の大きく違う点はご理解いただけたでしょうか。

これ以外にもセミナー講師と研修講師にはさまざまな違いがありますが、今回は特に、発注権限を持ち費用負担をするクライアントである企業ニーズの視点から、研修講師が押さえておくべき仕事内容の違いについてご説明しました。

セミナー講師から研修講師へ事業拡大したい方、企業対象であっても商工会議所などの公開講座の講師から本格的に企業内研修の講師を目指している方などは知っておくべき情報だと思います。

あなたの研修講師としてのご活躍を心から応援しています。

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