研修講師の仕事・研修の作り方とコツ

【超基本】研修当日までパートナー講師の仕事の流れ


企業を対象とした研修業界には、研修会社というビッグプレイヤーが存在します。研修エージェントや研修ベンダーと呼ぶこともあります。研修会社は、企業の経営者や人事担当者にとっては、組織や人材の問題解決策を提案してくれる存在であり、研修講師にとっては営業代行をしてくれる存在です。

現在、ほとんどの研修会社は社員講師を抱えずに、外部のパートナー講師と組んで研修を提供しています。パートナー講師というのは、研修案件ごとに契約して仕事をする外部講師のことです。

そこで今回は、研修講師が研修会社のパートナー講師として、カスタマイズ研修の発注を受けてから研修当日を迎えるまでの基本的な業務の流れを説明します。この流れに関しては、研修会社を介さずに直接契約する際も同じです。直接契約する際は、研修会社がしていることを講師自身が行うことになります。最後に、この流れの中で研修会社のパートナー講師として活動する場合の押さえておくべきポイントを解説します。

下図を参照しながら読み進めてみてください。


STEP1 案件から受注まで


カスタマイズ研修のスタートは、クライアントである企業の人事担当者から研修会社に対して提案の依頼が入ることから始まります。

ある程度の規模の企業であれば、研修を定期的に行っており、取引実績のある研修会社が何社かあるはずです。そのような既存取引のある研修会社の営業担当者に連絡を入れます。また、これまでに取引はなくても提案を聞いてみたい新規の研修会社があれば、そこに連絡を入れることも多いです。法人取引の場合はこのように数社に提案の依頼-いわゆるコンペをするのが一般的です。

連絡を受けたら研修会社の営業担当者はクライアント企業に出向き、研修の課題や要望について人事担当者にヒアリングを行います。

だいたい、この時点で営業担当者のアタマには、この案件を依頼したいパートナー講師の候補者が浮かんでいます。浮かんでない場合は、会社に帰って上司にヒアリング内容を報告し、どの講師に依頼すべきかを相談をします。

この後、「このような研修の案件があるのですが」という打診が研修会社から講師に入ります。もし内容的または時期的に無理な場合はお断りをすることになりますが、この段階で提示される研修の日程というのは、大まかな希望の時期が言われることが多く調整可能なことがほとんどです。

案件を引き受けたら講師は「研修設計書」を作成します。研修設計書とは、クライアント企業の要望やニーズ、課題に対応するためにカスタマイズ設計されたカリキュラムのようなものだとここでは考えてください。打診から研修コース設計書を研修会社へ提出するまでの期間(納期)は1~2週間が多いと思います。

この段階でもう1つ提出を求められるのが「講師プロフィール」です。講師プロフィールもクライアント企業が研修の発注先を検討する際の重要なツールです。いつも同じ定型プロフィールばかり使わずに、企業が「今回の研修はこの先生なら任せてもよさそうだ」と思わせるような情報があれば忘れずに付け加えて提出します。

研修設計書ができたら講師は研修会社にそれを提出して、必要があれば口頭で説明します。場合によっては研修会社の担当者と面談して設計内容を話し合って見直すこともあります。それができたら研修会社では提案書・見積書を作成し、クライアントへ提案活動を行います。

ここまでがSTEP1です。STEP1はまだ案件段階であり、研修会社とパートナー講師がタッグを組んで受注に向けて提案活動をしている段階です。

STEP2 教材の提出まで


クライアント企業では複数の提案を受けると社内で検討し、どこの研修会社に依頼するかを決定します。だいたい提案から2週間~1か月程度で決定の連絡が入ります。

クライアントから研修会社に決定の連絡が入ると、研修会社は講師とクライアントとの間で研修日程の正式な調整をします。日程が決まると講師との間で契約(書類のタイトルが『講師依頼書』等であることも多いですが、法的には講師業務の(準)委任契約です)が交わされます。

ここから講師は本格的に教材の開発をします。

教材開発は研修コース設計書を具体化していく作業であり、研修当日の参加者の反応や活動、アウトプットのレベル感などをイメージしながら作りこむことがポイントです。そのためにはSTEP1で依頼企業の要望やニーズなどをしっかり把握していく必要があります。

私はこれまでに数百人の先生方の研修を拝見してきましたが、研修参加者の理解度というのは、講師の話し方の問題より教材のつくり方の影響の方が大きいと感じています。

カスタマイズ度が大きい案件は、この段階でクライアント企業と研修会社と3者で面談して詳細の打ち合わせをする場合があります。カスタマイズ研修の場合、クライアント企業の人事担当者にはできる限り直接会ってお話を聞くことを強くお勧めします。お会いすると、研修会社の営業担当者には話していなかった貴重な情報を研修講師には聞かせていただけることが多いです。

講師が教材開発をしている期間のどこかで、研修会社は実施に向けて企業と詳細な打ち合わせを行い参加者名簿など必要な書類を受け取ります。それらの情報は講師に共有されます。参加者名簿は個人情報保護の観点から適切な取り扱いをしましょう。

研修の教材は、だいたい実施の1週間前が納品期限であることが多いと思います。講師は研修会社へ教材をデータ納品をします。以前は研修会社が印刷して準備することがほとんどでしたが、現在はクライアント企業が必要に応じて印刷して準備をすることも多くなりました。

ここまでがSTEP2です。STEP2は受注から当日の準備段階にあたります。特にカスタマイズ研修の場合は、研修講師が手間暇をかけて教材開発をする段階です。

STEP3 研修当日


研修当日、研修会社の営業担当者は講師を引率してクライアント企業を訪問し、研修をオブザーブすることが多いです。人事担当者も研修室の後方席でオブザーブしています。

研修当日、講師の仕事は研修参加者への対応が最優先になりますが、できる限り人事担当者ともコミュニケーションをとるようにしてください。パートナー講師の方で時々、研修会社に配慮して挨拶以外は直接にクライアントの担当者と話さないほうがよいと思っている方がいらっしゃいますが、それは誤解です。研修会社と研修講師はパートナーとして、クライアントの社員育成の問題解決を支援する役割を担っています。

休憩時間やランチタイムなど、人事担当者に対して何か気になることはないかを尋ねたり、こちらが気になることを話したりしてください。そうすることで、ここでも研修会社の営業担当者には話していなかった貴重な情報を講師は聞かせていただけることがあります。そのような情報は研修会社にフィードバックすることで、次の提案に繋がることも少なくありません。

以上がカスタマイズ研修の受注から実施までの典型的な流れです。

研修講師として押さえておくべきポイントはどこか?


この流れの中で研修講師が押さえておくべきポイントは、STEP1の案件段階です。

STEP2は研修ビジネスにおける商品開発段階であり、STEP3は商品提供段階なので、もちろん重要なのですが、この2つの仕様を決めているのがSTEP1だからです。

STEP1のクライアントに対するヒアリングでその後の内容はすべて決まります。もし、研修会社の営業担当者から提供された情報が不十分な場合は、再度クライアントへ聞いてもらうことになりますが、何度も質問する/質問されることを嫌がる人もいますので、どうしても聞いておかなければいけないことに絞り込みます。私が必ず聞くのは、「研修参加者が具体的に職場でどのような行動ができるようになったらよいのか」、「この研修をすることになった社内の特別な経緯があったのか」、「これまでにこれと類似の研修をしたことがあるか」、「あった場合は別の講師に依頼しようとする意図は何か」です。

根本的にヒアリングが不足している場合は、研修会社からアポイントをとってもらって同行営業してもらうこともあります。「よりよい研修をするために講師が直接お話を伺いたいので30分間だけでも時間をいただけないか」といえばクライアント企業から断られることはあまりありませんが、研修会社が嫌がる場合もありますので、まずは提案というカタチで営業担当者に尋ねてみてください。

またSTEP1の説明のところで、研修会社の営業担当者はヒアリングしながら、依頼したいパートナー講師の候補者がアタマに浮かんでいると言いました。あなたがそうなるためには、営業担当者とのコミュニケーションが不可欠です。クライアント企業へ訪問する行き帰りなどは絶好のコミュニケーションのチャンスです。売れっ子の研修講師の方は、各研修会社にご自分のプログラムをよく理解して上手に売ってくれる、まるで専属のような営業担当者がいたりします。

さらに必要なのはSTEP1以前のコミュニケーションです。研修講師になった当初は研修会社へアプローチをすると思いますが、その後も新しい研修プログラムを開発した際などは研修会社に出向いて説明してください。この時にヒアリングしてほしいことなどの一覧表を渡しておければベストです。その際に最近ニーズが増えている研修テーマなどの情報交換をしておきましょう。

まとめ|仕事の流れを理解したコミュニケーションを!


よい研修のために必要なものは、クライアント企業と研修会社と講師の情報共有・コミュニケーションです。カスタマイズ研修の失敗の原因の99%が、この3者の認識の行き違いやコミュニケーション不足にあると言っても過言ではありません。

研修終了後に「いい研修だった」と人事担当者にも研修参加者にも、研修会社にも言ってもらえるように、この流れを理解して3者の認識合わせを意識した仕事をしてください。

あなたの研修講師としてのご活躍を心から応援しています。

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